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INTERVIEW

監督インタビュー

どの俳優もアクシデントを経験した。彼らの体の傷跡、この映画のためにできた勲章は一生消えない。
――ダンテ・ラム(映画監督)

Q、この映画の物語を簡単に教えてください。

チェ・シウォンが演じたのは、チームの王様(キング)“エース”と呼ばれる一番の選手だ。エディ・ポンとショーン・ドウは彼のアシスト役だが、二人ともいつかは自分がエースになりたいと願っている。もちろん1つのチームに、キングは1人だけだけれど、ロードレース界の誰かの目に留まればと。

物語の中盤、二人はそれぞれにその願いをかなえる。つまり、目に留めてくれた人がいて、エースに抜擢される。そして、同じチームで目標に突き進んでいた3人が、互いに競い合うことになるんだ。

Q、ロードレースにおける、それぞれの役割とその戦術を映像化する際にこだわった点は?

どうやって集団から飛び出すか。どうやって集団の中で有利なポジションを取るか。今回の作品では、そういうものを一貫してドキュメンタリー的に表現した。見てもらうと分かるが、どの選手の位置取りも戦略に基づいている。チームメイトをどう配置するか。ライバルチームで最強のアシストはどこにいるのか。相手をマークする選手も必要だ。ライバルのエースが誰なのかを見極めて…、アシストは全員でエースを守っているから、それをどう分散させるか。どのタイミングでアタックすれば、ライバルを消耗させ人数を削れるか、集団をバラけさせることができるか。そういう戦略がたくさんある。

もちろん最も見応えがあるのは一騎打ち。最強のエース2人の競り合いだ。でも勝負をかける前に、大勢のアシストが自分たちのエースをいかにして最善のコース、最高のポジションに導いたか、そこにこそ一番の面白みがある。アシストたちはエースというキングを守っている。1人のために、ほかの全員が尽くしていると言える。

Q、高雄での撮影秘話などありますか?
1つのシーンのために大胆な要望を出した。どこかの都市の主要道路で、一定の距離を封鎖して撮影をしたいと。結果、高雄市の13㎞の主要道路を見つけ出した。1回の撮影のために13㎞を封鎖したんだ。もちろん上から下まで万全の準備をした。上はヘリコプター、地上は10台のカメラを全面的に配置。このシーンの手配だけで、数ヶ月の時間がかかった。

Q、砂漠でも撮影を行っていますね。いかがでしたか?

自転車競技で、選手たちの不屈の精神を観客に伝えるには、砂漠に行くのがいいだろうと考えた。僕はこれまで砂漠で撮影した経験はなかった。実際に行ってみたら、そう簡単ではなかった。事前に送られてきたロケハン映像は美しくて、青い空に金色の砂だった。ところが撮影スケジュールが大幅に遅れたせいで、行った頃には季候が変わっていた。砂漠があんなに寒いとは!

しかし、幸い、運がいいというのか・・・俳優たちはある意味とてもクレイジーで、僕のバカなアイディアに付き合いたいと思ってくれた。潜水服を買って、丈をカットして、アンダーウェアとして着用してもらったり。ともかく、あらゆる方法を考えたよ。

なにしろ朝が早い。選手の人数が多くて準備に時間がかかるから、出発は夜中の3時。町から砂漠までは、一番近くて1時間だ。到着後に出演者は着替える。その時間の気温は0度、ひどいときはマイナス1度。そんななかで準備しないといけない。午前10時すぎには気温がようやく上がり始めるけれど、最初の数時間、出演者たちは薄っぺらな衣装のままで震えていた。

夕方5時近くまで撮影する日があった。雨のシーンを撮り始めたら、すでに気温が低い時間になっていて、たぶん7度ぐらいだったと思う。かまわず進めたけれど、彼らを見ていて本当にかける言葉がなかったよ。寒さで全身が震えていた。こうした苦労が作品から観客にも伝わるはずだ。

Q、主要キャスト陣の体を張ったパフォーマンスは凄いですね。トラブルやアクシデントはありましたか?

どの俳優もアクシデントを経験した。彼らの体の傷跡、この映画のためにできた勲章は一生消えない。エディ・ポンは尻全体を負傷。ショーン・ドウはひざ、チェ・シウォンの腕も傷だらけだ。長年アクション映画を撮ってきたが、今回ほど大勢の負傷者が出たことはない。撮影全体での負傷者数は80人。そのうち骨折が5~6人。本当に危険すぎて、こうしたリスクはどんなに安全策を講じても避けられない。実際の自転車レース自体が、常にそうした事故と隣り合わせだからね。

Q、『疾風スプリンター』は一言で言うとどんな映画ですか?見どころなども教えてください。

スポーツ映画と思ってもらうのはかまわないけれど、見てもらうと分かるが、単なるスポーツものでは決してない。実際この作品には、僕の以前の作品になかった要素がたくさんある。特に友情の要素が強い映画だと思っているよ。
夢を追うという面で一番重要なことは、求めた夢を手に入れることだけではなく、その過程で何を得るかだ。笑いあり涙あり、心が温かくなる、思いっきり楽しめる作品だ。そういう意味では、前作『激戦 ハート・オブ・ファイト』と共通要素があるといえるね。

監督・脚本:ダンテ・ラム


1965年5月11日、香港生まれ。香港人監督。
1980年代末、ゴードン・チャン監督の助監督を務め、97年の『G4特工 OPTION ZERO』で監督デビュー。翌年、ゴードン・チャン監督と共同監督した『BEAST COPS 野獣刑事』で、第18回香港電影金像奨最優秀監督賞を受賞した。2008年の監督作『ビースト・ストーカー/証人』は香港、中国、台湾で高い評価を受け、2010年の『密告・者』は第30回香港電影金像奨の最優秀作品賞、最優秀監督賞にノミネート。2013年の『激戦 ハート・オブ・ファイト』でも第33回香港電影金像奨最優秀監督賞にノミネートされている。2014年の『クリミナル・アフェア 魔警』は第64回ベルリン国際映画祭 パノラマ部門に正式出品された。